『散り椿』グッズ

木村大作監督、岡田准一主演の『散り椿』を
初日に鑑賞してきました。

この映画を、私はこの先、何十回となく観直すことに
なると思います。

それほどに素晴らしかったです。

冒頭、雪のシーン。

岡田准一の佇まい。
何かを察知して、手に持っていた荷物を
道の端に、そっと置きます。

一瞬にして、静から動へ。

あっという間に刺客を組み伏せる
圧巻の殺陣。

カメラのカット割りでごまかすことはしません。

侍です。まさに剣の達人がそこに居ます。

据え置かれたカメラが、静かに見つめる中、
嘘や誤魔化しのない、強さと美しさに満ちた
殺陣を映し出しています。

構図も美しいです。

そして映し出される岡田准一の表情……。

彼が背負っている苦悩の深さが滲んでいます。

そして、麻生久美子との夫婦のシーン。

麻生久美子の凛とした眼差しに、
武士の妻としての芯の強さを感じます。

とにかく、画面の隅々まで “本物” しか
映っていません。

背景も、役者も、演技も、構図も、すべてが
美しく、ピンと張りつめた緊張感。

十分な余韻を感じさせるのに、
まったく無駄のないテンポ。

ここまで素晴らしい日本映画を観たのは久しぶり。
そう感じただけで、目が潤んでしまいました。

『散り椿』パンフレット中面

水墨画のような殺陣。三船を彷彿させるスピードと迫力

この映画の最大の特徴は、“美しさ”。

木村大作監督は、下記のように語っています。

美しい時代劇が撮りたいと思っていました。

  劇場パンフレットより

この志が、一ミリたりともブレていません。

本当に美しい。

その美しさがまず分かるのが、超高速の殺陣。

先日、TBSラジオ『伊集院光とらじおと』に木村監督が
ゲスト出演された時、
「見たことのない殺陣を撮りたかったんだよ」
と話し、長年一緒に仕事してきたベテランの殺陣師は、素晴らしい
仕事をしてくれるものの、“すでに繰り返してきた振付” になってしまう
ということで、岡田准一にも殺陣の振り付けを頼み、
この映画の殺陣が完成
したのだそうです。

この殺陣が、本当に素晴らしいです。

『七人の侍』『用心棒』『椿三十郎』など黒澤映画の殺陣。
“フィルムに映らない速度” で刀を振るった三船敏郎。
『大菩薩峠』や『切腹』でも見事な殺陣を披露した仲代達矢。
そして『子連れ狼』の若山富三郎に、『座頭市』の勝新太郎。

迫力があり、華がある殺陣で、私たちファンを魅了した
時代劇の大スターの中に、岡田准一が一気に並んだと思います。

とにかく、殺陣に誤魔化しがありません。

据え付けられたカメラが、完璧な構図で切り取った画面の中、
岡田准一が、“見たことのない流派の達人” にしか見えない、
芸術的な殺陣を見せてくれます。
本物の侍の “死合い” を見ているような迫力と緊迫感が
画面中にみなぎっています。

降り積もる雪の中で、
どしゃ降りの雨の中で、
それぞれ展開される殺陣が、
まるで水墨画のように美しいんです。

場面こそ少ないですが、西島秀俊、池松壮亮が見せる殺陣も
素晴らしいです。

クライマックスで見せる西島秀俊の刀の使い方にも
ビックリしました。

この映画を観ずに、時代劇を、日本映画を語ることはできない。
そう感じるほどの素晴らしさです。

確固たる軸を持った “日本人” の姿。人を愛することの美しさ

そして、ストーリーも美しいんです。

夫婦の愛情。

若き日から続く友情。

藩のために、人のために、身を挺すことを厭わない高潔さ。

正しいと信じたことを貫く意志の強さ。

登場人物の心の内が、秘めた想いが、
藩の裏側に隠された不正が、
物語が進むにつれて、徐々に明かされていきます。

ネタバレしてしまっては楽しめないので、
ここでは、ストーリーについて、ほとんど書きません。

セリフは少ないのに、すべてが伝わってくる演技。

シナリオの妙。

脚本を担当したのは、小泉堯史(たかし)。

黒澤明の助監督を務め、その死後、
遺稿となった『雨あがる』を監督し、国内外から
賞賛された名匠です。

『雨あがる』もいい映画でしたし、その次の
『阿弥陀だより』も大好きです。

その小泉堯史監督が、初めて人のために書いた脚本に
木村大作監督が、自分の撮りたい内容を書き加えて
完成した脚本があっての、この映画。

さらに、撮影現場でも、岡田准一をはじめ演技陣の
意見も取り入れつつ磨き上げられた物語には、
一切の無駄もありません。

撮影はすべてフィルム。
デジタル撮影よりもコストがかかります。

カメラ数台が取り囲む撮影は、一回一回が重要な
役者たちの真剣勝負の場。

とにかく、役者陣の目が素晴らしいんです。

人生の覚悟を決めた目。

人と真摯に向き合う目。

全員の目に、引き付けられます。
アップになった時の、
あの魅力に引き付けられます。

岡田准一はもちろん、
麻生久仁子の目が忘れられません。

そして、悪役の奥田英二の、目のすごさ。

心から、城代家老になり切っています。

登場人物全員が、一本筋の通った生き方を貫いて
いるんです。

そして、
岡田准一演じる瓜生新兵衛
麻生久美子演じる瓜生 篠
西島秀俊演じる榊原釆女
黒木 華演じる坂下里美
の織りなす、品があって、とても深い愛情模様。

描かれたあまりの美しさに、鑑賞中、
何度も涙してしまいました。

ああ、これが日本人だよな、と。

振り返りながら、もう一度観たくなってきました。

おススメです。

 

【作品メモ】
2018年、日本。
(あらすじ)
 享保15年。元 扇野藩藩士・瓜生新兵衛(岡田准一)は8年前、藩内の不正を訴え出たが聞き入れられず、妻・篠(麻生久美子)を伴って藩を離れ、現在は京都で暮らしている。そんな新兵衛には、今も藩から刺客が差し向けられることがあったが、かつて平山道場四天王の一人であり、“鬼の新兵衛” と異名をとった剣客の彼は、刺客の襲撃を退けてきた。
 篠は重い病に侵されていて、死期を悟った彼女は…
  (『散り椿』パンフレットより抜粋)

【監督・撮影】木村大作
【脚本】小泉堯史:木村大作
【原作】葉室麟
【音楽】加古 隆
【美術】原田満生
【監督補】宮村敏正
【撮影補】坂上宗義
【録音】石寺健一
【照明】宋 賢次郎
【装飾】佐原敦史
【殺陣】久世 浩:山田公男:岡田准一
【キャスト】瓜生新兵衛/岡田准一:瓜生 篠/麻生久美子:榊原釆女/西島秀俊:坂下里美/黒木 華:坂下藤吾/池松壮亮:篠原三右衛門/緒形直人:宇野十蔵/新井浩文:平山十五郎/柳楽優弥:篠原美鈴/芳根京子:田中屋惣兵衛/石橋蓮司:榊原滋野/富司純子:石田玄蕃/奥田瑛二 ほか

本編:130分

『散り椿』パンフレット


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